チューリップは中近東が原産地で、16世紀頃からヨーロッパで栽培されていて、中でもオラングは世界一のチューリップ王国です。
ところで、チューリップの実や種子はどこにできるのでしょうか?
球根が種子だと思っているかもしれません。
植物は花が咲いた後に実ができて、実の中に種子ができるのです。つまり、球根は実でも種子でもありません。
チューリップの球根は正確には鱗茎といい、短縮茎に葉が重なり合い層状になっているものです。
チューリップはなぜ球根で栽培するのでしょうか?種子では栽培できないのでしょうか?
チューリップはなぜ球根で栽培するの?
チューリップの球根の多くは袋に入れられて販売されています。
その袋には、その花の色や形状、どのような背丈に育つのかが示されています。そして、その通りの花が咲きます。
植物には、子孫を残すための方法として、オシベにできる花粉がメシベについて、種子ができる有性生殖があります。
種子で子孫を殖やすと、オスとメスの二つの性質が混じりあい、その子孫は親とは同じではなくなります。花粉のもつ性質とメシベのもつ性質で、どんな色、どんな形の花が咲くかが決まります。
これに対し、球根をつくって仲間や子孫を残していく方法は、無性生殖または栄養生殖と呼ばれています。
体の一部から育った生物をクローンといい、球根は地下茎の一種で体の一部ですから、球根から育つチューリップもまたクローンです。
クローンは遺伝子が同じなので、親とまったく同じ性質の個体が生まれてきます。
そのため、チューリップを球根で殖やせば、その球根をつくった株と花の色や形、草丈などが同じ性質のチューリップが育ちます。
チューリップの球根では、どのような背丈に育ち、どのような色や形の花が咲くかがわかることが大切なのです。
チューリップは花壇を花の色ごとに区切るように栽培されることが多く、この場合には、何色の花が咲くかを知っていなければなりません。
そのため、どのくらいの草文で、どんな色や形の花が咲くかが分かっている球根が栽培され、販売されているのです。
チューリップの球根を増やすのは、比較的容易です。
栽培されている土の中で、自然に増えるからです。1個の球根を栽培して、花が咲いた後に掘りあげると、2、3個はすでに分かれています。分かれていない場合でも、手で簡単に分けることができます。
チューリップに種子はできるの?
チューリップは、球根で栽培されますが、チューリップも花が咲けば、種子はできます。
種子の厚さは薄く、長さは数ミリ程度です。その種子をまけば発芽し、やがて花が咲きます。
チューリップに種子はできますが、稀にしかできません。
それは、チューリップには自家不和合性という性質があるからです。
これは、自分の花粉が自分のメシベについても種子ができず、他の株の花粉がメシベにつけば、種子ができるという性質です。
チューリップの花が咲いて、一つの花の中で、オシベの花粉がそばにあるメシベについても、種子はできないのです。
チューリップの花壇では、別の形や模様の花を咲かせる他の品種の株が植えられることもありますが、多くの場合、同じ形や色の花を咲かせる同じ品種の株が並んで植えられていることが多いのです。
同じ品種の株は、同じ株の球根から殖やされるので、株は違っても、遺伝的な性質はまったく同じクローンです。
このため、他の株であっても、遺伝的には自分と同じなので、その花粉がメシベについても種子はできないのです。
結局、チューリップの種子が稀にしかできない理由は、自家不和合性という性質をもつことと、多くの場合、同じ品種の株が並んで植えられていて、その同じ品種は同じ球根から殖やされているクローンであることによります。
チューリップはなぜ種子で栽培しないの?
チューリップでは、種子ができるのは稀ですが、種子は作られるのです。
種子で栽培することは可能ですが、種子で栽培されないのには理由があります。
花が咲くまでに年月がかかる
種子で栽培すると、種子をまいてから花が咲くまでに長い年月がかかります。
市販されている球根を買ってきて秋に植えれば、次の年の春には、必ず花が咲きます。これは、翌年の春には花が咲くはずの球根が選ばれて販売されているからです。
チューリップのツボミは球根の中で作られますが、大きく成長して肥大した球根の中でしか作られません。
種子から育てて、球根をピンポン王より少し小さいくらいの大きさに成長させなければ、チューリップの花を咲かせることはできません。
種子をまいて球根をこの大きさにまで育てるためには、長い年月がかかってしまいます。
チューリップは、春に葉を地上に出し、光合成を行って作られた栄養を貯えて、毎年、球根は徐々に大きくなります。
しかし、チューリップの葉の寿命は短く、夏には枯れてしまいます。
チューリップが球根を成長させるための光合成を行う期間は、非常に短い間です。
このため、ツボミをつくるほどの大きさの球根になるためには、長い年月がかかります。
通常、種子が発芽してから5、6年はかかるのです。
種子から栽培すると不均一になる
チューリップは先に記載したように、自家不和合性という性質をもっています。
そのため、種子で殖やすと、他の品種の花粉がついていますから、葉の大きさ、花の形や色、大きさなどの特徴がバラバラになります。
このような種子では予想できない草丈や色や形の花が咲く可能性があるため、販売が難しいのです。
一方、球根で殖やせば、その球根をつくった株と同じ性質のチューリップが育ちます。
どのくらいの草丈で、どんな色や形の花が咲くのかを知ったうえで、チューリップを栽培することができます。
以上のように、チューリップが種子ではなく、球根で栽培されるのは、花が咲くまで長い期間がかかることと、同じ性質のチューリップが育たないことが理由です。