天ぷら油は180℃くらいが揚げ物に適した温度とされていますが、さらに加熱して360℃から380℃以上になると、火種がなくても発火します。
しかし、天ぷら油などの油は、加熱しなくても発火することがあります。
油類を使い終わって廃棄する際、誤った処理をすると自然発火することがあるのをご存知でしょうか?
ここでは、天ぷら油などの油類が、自然発火する理由、事例、予防対策などについて記載しています。
油が自然発火する理由
鉄が屋外で雨風にさらされると錆を生じます。これは鉄が酸素と化学反応を起こして酸化したからです。
同様に、油も空気にさらされると空気中の酸素と化学反応を起こして酸化します。
油は酸化の過程で発熱を伴い、この酸化熱が蓄積して、周囲の温度が上がることで、さらに酸化反応が進むというサイクルが繰り返され、発火点に達して自然発火するのです。
油が自然発火するのは、いくつかの条件が重なったときです。
油が自然発火を起こす条件
酸化しやすい油
油の種類によって、酸化しやすいものと酸化しにくいものがあり、不飽和脂肪酸を多く含むものは、酸化しやすい油です。
酸化しやすい環境
油と空気の接触面積が大きいと、酸化されやすくなります。
布や紙類、木材に油をしみこませると、酸化が進みます。
布、紙、木材は繊維質のため、細かい穴がいっぱい開いています。
これらの衣類、紙、木材に油を染み込ませると、油と空気との接触面積が増え、油の酸化が促進され、これに伴って酸化熱が多く発生します。
熱がこもる環境
油の酸化により、熱が発生しても空気の流れがある場所では熱は放散し、熱がこもることはないので、温度が上がることはありません。
油が染み込んだ衣類、紙、木材などは、熱伝導率が小さいために保温効果が働き、熱が蓄積しやすくなります。
上の3つの条件が重なると、温度は発火温度に達して自然発火しやすくなります。
酸化しやすい油とは?
油の中でも、酸化しやすい油は乾性油と呼ばれます。
油は乾燥のしやすさによって、乾性油、半乾性油、不乾性油という3種類に分類されます。
油の乾燥は、水が蒸発して乾燥するというような乾燥ではなく、空気中の酸素と結びついて起こる酸化のことで、固化ともいいます。
例えば机などの上に、油を指で薄く塗ったとします。それがしばらくして固まって膜になっていたら乾性油、固まらずに液体のままなら不乾性油、完全には固まらずにベトベトしていたら半乾性油ということです。
料理で使用する食用油では、クルミ油、エゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油などの乾燥油は、酸化しやすいので多くの熱を発生します。
サラダ油類、大豆油、ゴマ油、米油など半乾性油に分類されている油は、乾燥油より酸化しにくいですが、条件によっては自然発火するリスクはあります。
食用油以外では、油性塗料や油絵のリンシードオイル(アマの種子から搾油)、(
ポピーオイル(ケシの種子から搾油)なども乾性油に分類されます。
食用油で、乾性油、半乾性油、不乾性油は以下のようなものがあります。
乾性油…クルミ油、エゴマ油、亜麻仁油、紅花油、ひまわり油など
半乾性油…サラダ油類、大豆油、ゴマ油、米油など
不乾性油…オリーブ油、ツバキ油など
家庭内で起こりやすい自然発火
ゴミ箱、ゴミ袋
天ぷら油をキッチンペーパーやゾウキンに染み込ませた状態で、ごみ袋やごみ箱に入れておくと、内部で油が酸素と反応して酸化による酸化熱が発生し、温度が高くなって自然発火する恐れがあります。
冬より、夏場は温度が高くなるので、自然発火のリスクは高くなります。
衣類乾燥機
天ぷら油が染みついた衣類やゾウキンを乾燥機で乾燥させると、自然発火して出火したケースが多くあります。
「油の種類によっては洗濯しても、落ちない場合があるので、食用油、機械油、ドライクリーニング油、ガソリン、ベンジンなどの付着した衣類は、洗濯後でも絶対に乾燥しないように」との注意書きが記載されています。
レンジフード
調理中の煙を吸い込んでくれるレンジフードは、油などの汚れがつきやすいですが、頭上に設置されているため、掃除しにくい場所です。
レンジフードの汚れは、油と埃という可燃性の汚れが混ざり合って、何層も積み重なった状態になっているため熱がこもりやすく、下からの調理熱が加わり、フィルターの油が自然発火することがあります。
油による自然発火の事例
・油をふき取った布をダンボールに入れて放置したところ自然発火した。
・マッサージ用オイルをふき取ったタオルを洗濯後に乾燥機で乾かしたところ自然発火した。
・天ぷら油がさめない状態で、紙製の油吸着剤で処理して、その油吸着剤をごみ袋に入れてベランダに置いていたところ、ゴミ袋から出火した。
・天ぷら油で揚げ玉を大量に揚げて、ザルに積み重ねて入れたまま放置したところ、揚げ玉が自然発火した。
・何年も掃除せず多量の油が付着していたレンジフードのフィルターに下からの調理などの熱が加わり、フィルターに付着していた油が自然発火した。
油による自然発火の防止対策
油をふき取ったゾウキンなどは洗剤でよく洗って油分を取り除き、風通しの良い場所で重ならないように乾燥させてください。
油が染み込んだ紙や布を捨てる場合、水を十分に染み込ませたり、水の入った容器や袋に入れて処理してください。
油が付着した衣類などは洗濯しても、繊維のすき間に油が残ることがあるので、乾燥機は使わずに自然乾燥させてください。
最後に
自然発火は、私たちの身近な所で起こる現象です。
油の自然発火による火災の件数は統計上、それほど多くはありませんが、一般家庭においても、実際に起こっています。
油分を含んだものを取り扱う際は、製品の注意書きなどをよく読んで、使用方法を誤らないようにしてください。