「蓮は泥より出でて泥に染まらず」と言われるように、ハス(蓮)の葉は驚異的な撥水性を示すことはよく知られています。撥水性とは水をはじく性質のことです。
ハスは英語でロータス(lotus)というため、ハスの葉のこの撥水性の効果をロータス効果と呼びます。
本記事では、ロータス効果の詳細な内容と、その原理とその応用製品について記載しています。
ロータス効果とは
ハスの葉は汚れない
ハスは水面に葉を茂らせ、夏の早朝に美しい花を咲かせますが、このハスの葉には水をはじくという特徴があります。
ハスの葉の上に雨が降っても、水滴となって、ころころ転がるだけで葉は濡れません。
また、水滴は葉の表面に付着している泥やほこり、小さな虫までも取り込みながら転げて、汚れを落とすという自浄作用があります。この作用があるため、ハスの葉はいつもきれいな状態にあるのです。
ハスは葉の表面が汚れていると、生きていくのが難しくなります。
レンコンはハスの地下茎が肥大化したものです。泥に埋もれているレンコンから長い葉柄が伸びて水面より上に出て、ハスの葉の中央の裏側とつながっています。
ハスの葉の中央部には小さな穴があいていて、葉につながっている葉柄の内部にも空洞があり、この空洞は、地下茎であるレンコンの穴とつながっています。
レンコンは泥の中にあって、それ自体では呼吸ができないので、ハスの葉から葉柄を通して酸素を供給しているのです。
ハスの葉が汚れてゴミがたまり、穴がふさがってしまうとレンコンに酸素を供給できなくなってしまいます。
以上のことからハスの葉は汚れない状態にしておく必要があるのです。
ハスの葉が汚れない理由
植物の葉は通常、表面にワックス成分が分泌されているため、ある程度の撥水性があり、
ハスの葉もプラントワックスと呼ばれるロウのような物質で覆われています。
また、ハスの葉の表面には5~15μm(μm:1mmの1000分の1)の毛のような突起物が20~30μmの間隔で付いています。
この突起物が空気のクッションを作って水滴を支え、これにより撥水性をさらに高められます。
この撥水性により、葉の上の水分は濡れることなく、水滴となり、葉の上の埃などの汚れを取り込みながら転げて、汚れを落とすという自浄作用があります。
ロータス効果とは
ハスの葉の表面には細かい凹凸のデコボコがあり、またワックス成分が分泌されています。
このことにより、葉に水がついても濡れることはなく、水分は水滴となり、表面の汚れを取り込んで、常にきれいな状態に保たれます。
このようなハスの高い撥水性と自浄作用をロータス効果と呼びます。
ハスは英語でロータス(lotus)というため、ハスの葉のこの撥水性の効果をロータス効果と呼びます。
このようなハスのロータス効果はドイツのボン大学のバートロット(Wilhelm Barthlott)氏により1997年に発見されました。
ロータス効果の原理
撥水性と接触角
水をはじく性質を撥水性といいます。撥水性の逆の意味の用語はぬれ性です。
撥水性がよいということは、ぬれ性が悪いということです。逆に、撥水性が悪いということは、ぬれ性がよいということです。
撥水性のよしあしは、液体の表面が固体と接するところで液面と固体面がなす角である、接触角で表すことができます。
接触角が0°に近いほど、撥水性が悪くなり、接触角が180°に近いほど撥水性がよいということになります。
一般的に接触角が150°を超える表面を超撥水性表面といわれています。
撥水性は表面自由エネルギー(表面張力)により決まる
撥水性は液体と接触する物体の表面自由エネルギーの相対的な大きさにより決まります。
単位面積当たりの表面自由エネルギーが表面張力です。表面張力は表面積をできるだけ小さくしようとする力です。
表面張力は水のような液体だけでなく、固体にもあります。ただ、固体は形状が変化しないので、目に見える形では見ることはできません。
テフロンのようなフッ素系化合物は表面張力が水に比較して非常に小さいので、高い撥水性を示すため、テフロン加工のようなコーティングに使用されます。
撥水性は接触面の形状によっても変化する
液体が接触角θ1の素材1と接触角θ2の素材2の複合面と接触する場合を考えます。
素材1と素材2の面積の比率がA1:A2とすると、液体の複合面上の接触角φは下のようなCassieの式で表すことができます。
COSφ=A1・COSθ1+A2・ COSθ2
素材2が空気の場合、θ2 = 180°となるのでCOSθ2=-1
COSφ=A1・COSθ1-A2
A1+A2=1なので
COSφ=A1・COSθ1+A1-1
となります。
θ1 > 90° のとき、φ > θ1であることが分かます。
液体が接触する物体の面を液体が入り込めないような細かい凹凸面にすることにより、撥水性がよい面は、より一層撥水性がよくなります。
ハスの葉では、素材1は葉の表面の突起物に分泌しているワックス成分で、素材2は突起物がないスペースの空気となります。
ハスの葉の撥水性は以上のような原理に基づいています。
ロータス効果はバイオミメティクス(生物模倣)の事例の1つとして知られ、様々なところに応用製品化されています。
ロータス効果の応用製品
塗料
ビーズコートという塗料は塗膜表面の微細な凸凹構造とシリコーン樹脂成分の相乗効果により、ハスの葉と同様のロータス効果を再現した超撥水性塗膜で、塗膜への汚れが付着しにくくなっています。
傘
福井洋傘のヌレンザという傘に使われている布は、折り方を工夫することで、ハスの葉の表面にある小さな凸凹を再現し、従来より撥水性が高まり、その効果が長持ちするという利点が生まれました。
しゃもじ
ご飯を食べる時に使うおなじみのシャモジの表面に多数のデコボコを設け、更にその上に微細なデコボコを設けたダブルエンボス加工のシャモジはロータス効果を応用したもので、ご飯がこびりつきません。
ヨーグルト製品のフタの裏側
森永乳業のヨーグルトのフタには、東洋アルミニウムが開発した「トーヤルロータスR」という、ロータス効果を応用した撥水機能にすぐれた素材が採用されています。
ヨーグルトを開けたとき、フタの裏側にヨーグルトが付いていると、フタについたヨーグルトをスプーンでこそいだり、捨てる時にフタを洗ったり、子供がフタを開けるときに手についてしまったりします。
フタにヨーグルトが付かないことにより、このようなことがなくなりました。
テフロン加工のフライパン
テフロンは元々撥水性の極端に高い材料ですが、これにさらに表面に凸凹構造を追加することにより、撥水性を高めています。
防水スプレー
防水スプレー ドライバリア365はスカーフ、ネクタイ、傘などに塗布して、表面自由エネルギーをより小さくすることにより、撥水性を高めることができます。
まとめ
ハスの葉の表面には細かい凹凸のデコボコがあり、またワックス成分が分泌されています。
このことにより、葉に水がついても濡れることはなく、水分は水滴となり、表面の汚れを取り込んで、常にきれいな状態に保たれます。
このようなハスの高い撥水性と自浄作用をロータス効果と呼びます。
ロータス効果はバイオミメティクス(生物模倣)の事例の1つとして知られ、様々なところに応用され、製品化されています。